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目の前がかすみ始めた。
手や体中の感覚さえもあの男に奪われていくようだ。
それでも…。
少年はぼろぼろになりながらも自分の体を無理やり起き上がらせる。
「まだ立つのか」
「何度でも立ち上がってやる。それがあいつとの約束だ」
少年の右手には炎の灯った剣が握られていた。
少年が息をするたびに一緒に大きく揺れる。
「ふふふ、ご苦労だな。あの女はお前を裏切ったんだぞ」
「関係ない…」
強い風が砂埃を立てながら目の前を通って行く。
もうすでに少年の体は一つのたわいもない少女との会話での約束だけで動かされている。
体がぼろぼろでも少年の瞳は輝きを放っていた。
「そんなの関係ない。裏切られても、蹴落とされても、殴られても、切りつけられても…
俺があいつを好きだってことにまったくもって差し支えねぇんだよ!」
男は少し鼻で笑い、目の前でぼろぼろになっている少年へといった。
「なら結果を出せ!全力で来い。少年!」
そういうと男は素早く腰にぶら下げていた大きな剣をさやから抜き出した。
少年は右手の剣の今一度強く握りしめた。
一瞬二人の動きが止まり、次の瞬間2人は目の前の敵に最後の一撃をたたきつける。
辺りの砂埃が一層強くなりその場を包み込んだ。
「真人、もし願いがかなうとしたらどんなことをお願いする?」
「うーんとねぇ、ぼくは…。ひーろーになりたいな」
「ヒーローか、いいなぁ。真人はなんでヒーローになりたいんだい?」
「え?だってさぁ、おじぃちゃんとかおかぁさんとかおとうさんとかみんなが
もしかいじゅうにおそわれたときにさぁ、ぼくがみんなをまもれるじゃん!」
幼いころのおれはそんなことをいいながらガッツポーズを決めていた。
「真人は守るなんて言葉ももう覚えたのかい?すごいねぇ」
「だって、このまえのぎゃおれんじゃーのぎゃおれっどがみんなをまもる!っていってたもん」
「そうかぁ…。じゃぁ真人が大きくなったときはヒーローになってるといいね」
「うん、ぜったいになるよおじぃちゃん」
「じゃぁ約束だよ」
そういっておじぃちゃんはおれの小指を自分の小指を絡ませてリズムに乗りながら
笑顔でおれの手を引いた。それは単なる幼少期の祖父との約束だったかもしれない。
だけど、祖父の小指には孫への愛情より他に何かがこもっていた。
それは気のせいだったかもしれない。でも幼い日の自分はそう思った。
笑顔で手を取り合って夕方の帰り道で大きな声で歌った。
「ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます。ゆびきった」
=幸せの契約=
ある冬の日の深夜、雪が降り積もる中、早月(さつき)は自分の家の近くの自販機へと向かっていた。
なんでこんな目に会わなきゃいけないんだか…。
あのくそ兄貴、覚えてろよ。
冬休みだからって、こき使いやがって。
頼まれた炭酸のジュース、家に着くまで振りながら帰ってやるんだから。
だいたい、今時冬なのに炭酸飲むなんて、季節はずれもいいところだよ。
お目当ての自販機で兄に頼まれたジュースを手に取った早月は、
兄の驚く顔を思い浮かべ、思わずにやけてしまった。
よし、家に帰るか。
そう思い振り返った瞬間、誰かとぶつかった。
「痛い」
ぶつかった相手は思いのほか、がっちりとした体格だったので
けっこう痛く、思わず声が出た。
「すいません」
一応謝っておく、変な不良だったら困るから。
「いえいえ、こちらこそすいません。ちょっとよそ見をしていたもんで」
そう言いながら、男は倒れた早月に手を差し伸べた。
なんだ結構いい人じゃん。
感心しつつ、早月は差し伸ばされた手をつかみ起き上った。
「ありがとうございます」
早月は、一礼をして家への帰路へと向かった。
さっきよりも、降っている雪の量が増えてきている。
急いで帰らなきゃ、風邪ひいちゃう。
そう思い、早月は急ぎ足で家へと向かった。
雪がどんどんひどくなってきた。
風も強くなり、視界が暗闇と雪で阻まれてほとんど見えない状態になってしまった。
こんなになるなんて聞いてないよぉ…。
早月は文句を言いながらとりあえず家へと向かっていた。
しかし、もう家についてもいいころなのにいっこうに家に着かない。
自販機から家まではそう遠くはないはず、歩いて五分もかからない。
それどころか、雪のせいだと思うが周りの家さえもなんだか見えなくなってきている。
不安に駆られながらも早月はひたすら歩いていた。
ここは街中なんだから遭難なんてそんなことあるはず…。
と、改めて前の暗闇をにらみつけたそのとき
早月は目の前に映し出されたあまりの光景に驚き、右手に持っていたジュースの缶を落としてしまった。
ジュースの缶は手のひらから滑り落ち、泡を噴き出していた。
『昨夜、都内の女子中学生が行方不明になったとの通報がありました。
警察は今その女子中学生を捜索中ですが、未だに見つからず
警察は拉致の可能性がないか、捜索と同時に捜査中です…』
「真人、お前も気をつけろよ。最近夜抜け出してるの知ってるんだぞ」
親父の説教が始まった。いつものことだ、見たものをそのまま口に出してくる。
「はいはい、わかってる」
「にぃちゃん、夜遊びに行ってるの?にぃちゃんずるい」
妹のゆずが駄々をこね始めた。ゆずはまだ五歳、いろんなことに興味があるのはいいことだけど、
あまりにもいろんなことに興味を持ちすぎている。
「はいはい、今度一緒に遊びに行こうね」
「おい、ゆずまで連れてほんとに何をする気だ。ゆずを連れていくんならとぉさんも連れて行きなさい」
何を言ってるんだこのバカ親父は…。
「はいはい、今度ね」
「やったな、ゆず」
親父は、ゆずと目を合わしてガッツポーズを決めている。
ゆずもそれに反応してガッツポーズを返す。
どうなってんだよ、この家族。
真人(まこと)は、微笑を浮かべて最後のパンを食べきった。
そろっと勉強しなきゃまずいよな。いつも、そう思ってるんだが
つい、コートを手に外に飛び出してしまう。
真人は中学校三年生、三月には受験を控えている。
外に出てみるとさっきまでの温かさとは裏腹に自分の顔面に
勉強しろと訴えるかのように冷たい風が吹いた。
真人は二階建てのアパートに住んでいる。
この建物もかなり古くなり、今にも床が抜けそうな感じだ。
最近冷え込みが激しくなり夜の外出さえも厳しくなってきた。
弱音をはいてるわけにはいかない、今日は待ちに待った初デートの日。
気を取り直し、待ち合わせ場所へと急いだ。
待ち合わせ場所は近所の公園だった。昼間は近所の子供たちが遊びにきていてとっても
にぎやかな場所だ。その公園の真ん中にある時計の下で九時に待ち合わせる予定だった。
が、さっき携帯の時計を見たら八時五十分。どうやら家の時計が一時間遅れていたみたいだった。
初デートなんで気持ちを落ち着かせることもあり、
一時間前には公園にはついていようと思っていたんだけど
こうなるとは…。
そういえば、昨日の夜親父がゆずと時計回しごっこで盛り上がってるのを風呂上りに
見た覚えがある。時計回しごっことはその名の通り時計を回して遊ぶ。という
いたってシンプルな我が家の四大ごっこのうちの一つだ。
ご先祖さまからのありがたい教えだとかで、このまえちょっとばかにしたら
とっても怒られた記憶がある。きっとその時計回しごっこのさい、時計を直すとき
一時間間違えて遅く設定してしまったんだろう。
真人は頭を抱えつつもバスの時刻表を見た。
次のバスは、九時。待つよりも走ったほうが早い。
初デートの日に遅刻なんてそんな悲しいことはしたくはない。
真人は急いで公園へと向かった。
公園まではここらへんから大体二十分。走れば間に合うはず。
よし、この道を曲がれば公園に出るはず…。
真人の前に障害物が立ちはだかった。
真人は走る足を止め、目の前に立っているよく見る障害物に目を通した。
【工事中につきこの先立入禁止】
ありえない…。息切れしながら真人はポケットから携帯を取り出した。
携帯の画面の右上に映っている時刻を眺めた。
【8:55】
終わった…。この道がなければここからだいぶ戻って違う道へと行かなければ
公園にはたどり着くことができない…。
真人は地面に四つん這いになった。障害物の奥の工事の人が真人を不思議そうに見ている。
アスファルトのでこぼこが手のひらとひざを刺激した。
目の前を猫が横切った。猫は馬鹿にしたような目でこっちを向きながら塀に登った。
塀…?塀。塀!真人の頭にいい考えが浮かんだ。
だが、こんな発想いまどき幼稚園児ぐらいしかやらないだろう。
さすがは親父の息子。親父、お前の息子でホントに良かったぜ!
真人は改めて携帯の時刻の画面を見た。
【8:57】
間に合う。真人は、さっきの猫が登った塀に手をかけ、いっきにのぼった。
休憩して座ってたばこを吸っていた工事の人はたばこを吸うことを忘れ、
塀に登った少年の姿を口をあけたまま見ていた。
真人は、塀の上を走りだした。
それに反応してさっきの猫が真人から逃げていく。
残り二分。細い塀の上を両腕を開きバランスをとりながら走っていくその姿は
まさに鳥。風をきり塀の上を公園へと向かって走っていく。
残り一分。もう、公園が見えてきた。あそこにいるのは唯ちゃん。
いつもよりも大きく開いた目、さらさらの短い髪は風になびき、
周りにいる子どもたち、保護者の方々の中で輝いているように見える錯覚を覚えさせる
そのきれいな肌。まるで雪みたいだ。待っててくれたんだね。
今すぐ行くよ。真人は塀から飛び降りて、唯のほうへと飛びかかった。
だが、ひらりとかわされ真人はあっけなく地面に顔面をたたきつけた。
「なにすんのよ」
なんだかとっても嫌な予感がする。またやってしまったと思い
真人は恐る恐る体を九十度回転させて唯の顔を見た。
「なんか冷めた。真人くんがあんなに恥ずかしいことするなんて思わなかった。じゃぁね」
そういうと、唯はすたすたと公園から出て行ってしまった。
鳥の羽ははかなくも散ってしまった。
十時二十六分。もうこんな時間かぁ…。
あれから何分待っただろう。友達がトイレから帰ってこない。
新(しん)は食べ終わったみんなの皿眺めた。
みんな全部食べ終わっている。そして、三十分待っても誰一人として帰ってこない。
新の脳内の回路が盛んに働き始めた。
そして一つの結論を出した。
やられた…。
最初ここに来る時もなんだか嫌な予感がしていたけれど本当にこうなるとは、
どうりでみんなやけに今日は高いものを注文すると思った。
まぁ仕方がないか、いつものことだし。
そう思い、新は席から立ち上がった。カウンターへ行き金を払い、
外の冷たい空気にあたりに行った。
何度めだろう。新は過去の記憶をよみがえらせた。
たしか、最初にやられた時は中学一年の時初めてみんなと一緒に
このファミレスに来た時だった。たしか、あの時もみんなトイレに行ったっきり
帰ってこなかった。あのファミレスは出入り口が二つあって店の正面に大きな出入り口が一つと
トイレの近くにもうひとつある。きっとそこから逃げ出したんだろう。
あれから何回やられたことか…。
でもどうせ金なんてあっても使い道ないし、人のために使ったんならそれでいいじゃないか。
そんなこと思ってる自分を情けなく思いため息をついた。
そしていつもここへくる。
いやなこの世界から一時でも離れることができる場所。
国立の立派な図書館。昔からあってよくここへくる。
係りの人とはもう仲良しだ。新は高鳴る胸を押さえながら図書館へとはいって行った。
中へ入るといつもと変わらぬ空気が漂っていた。本の匂い…。
この匂いは嫌いではなかった。いや、むしろ好きだった。
入口の扉をしめ、奥へと進みカウンターの係りの人にあいさつをした。
「やぁ、また来たのかい」
「はい」
係りの人の笑顔の問いかけに新も笑顔で返事をする。
「ごゆっくり」
そういわれ、新は一礼して図書館の奥へと進んでいった。
図書館の中はさすが国立ともいうべきか、とてもきれいだ。
本もきちんと整っていて、床もきれいなフローリングだ。
窓もたくさんあり外からの光がはいってくる。
理想的な空間。何度かこの場所にすみつきたいとも思ったことがある。
ついた。
新は窓際の図書館の一番すみっこの場所がお気に入りだった。
いつもこの席で違う世界を堪能している。
新はさっそく荷物を置き、ジャンバーを椅子にかけて本を探しに行った。
席の近くの本はすべて読みつくしてしまっているので少し遠いところまで行かなければならない。
図書館は広いのでまだまだ読んだことのない本はたくさんあった。
だけどなぜか今日は読みたい本が見つからない。
いつもは、しばらく歩いていると背表紙のタイトルで読む本を決めているけど
今回はなんだか興味がわかない。
どうしたんだろう。新は少し不安になった。
読む本がなかったら、違う世界へと行くことはできない。
この世界にずっといなければいけない。そんなの嫌だ。
新はあせった。仕方がないので、カウンターにいる係りの人に
お勧めの本を教えてもらうことにした。
こういうことをするのは初めてだったので少し気が引けたが
読む本がないのだから仕方がない。新はカウンターへと足を進めた。
「あのぉ、すいません」
新に気づいたらしく係りの人はカウンターの奥から笑顔を見せた。
「どうしたの?」
「実は、読む本が決まらなくて何かいい本ありますか?」
新は少し照れながら言った。
「いい本ねぇ…ちょっと待ってて」
そういうと係りの人はカウンターの奥へと行ってしまった。
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